中山英之(建築家、中山英之建築設計事務所主催、東京芸術大学建築科准教授)
舞台の上で役者がなにかをやり、それを客席から見て何をか思う。そういう単純なやりとりをやりとりとして成り立たせるためには、両者のあいだに意外とたくさんの了解事項が必要なのだと思います。作り手側の興味として、ではいったい何が了解事項になっているのかしらと紐解いてみたくもなるところでしょうが、たいていの場合観客はチケットの対価として「何か思わせて!」と期待しているわけです。だからそうした検証に本番を費やすわけには当然行かず、さしあたってある程度実証済みの書式を採用することで、やりとりそのものの不成立を避ける判断が求められるのでしょう。でもね、でもですよ。ごく稀に、何がここでの了解事項なの、というそこに苛烈なる興味を抱いている人間も客席にはいてですね、それがチェルフィッチュの舞台を見続けてしまう理由のひとつであることを、こういう機会にこっそり、書いておきたくもなるのです。