『三月の5日間』初演俳優アンケート:松村翔子
アンケート構成:桜井圭介(音楽家、ダンス批評)
Q1 当時を振り返って、出演者=俳優として、チェルフィッチュそして『三月の5日間』は、どのような演劇だったとお考えでしょうか? あるいは、自分はどのように舞台に立っていたのか?について、お聞かせください。
『三月の5日間』は私自身の成長の記録でもあります。辛い経験をたくさんしましたが、そのおかげで今とんでもなくタフになりました。
まず2004年の初演について。私は一人芝居『マリファナの害について』から引き続きの出演でした。この一人芝居で、演じ手の人称(主格と言った方がわかりやすい?)がころころと変化する手法が生まれました。これを体現するのはとても大変でした。『三月の5日間』はそれをさらに展開させた作品でしたので、方法論をとにかく極める気持ちが強かったです。作品のためにいかに自分を犠牲にできるかばかり考えていました。全然楽しくはなかったですし、もう少し自分自身を大事にしてもよかったんでしょうが、俳優としては一番よく成長した、みずみずしい時期でした。
次に2011年の再演時について。ミッフィーちゃん役ではなくユッキー役だったのが感慨深いです。この頃は、演劇自体もう辞めてしまおうかと悩むほど苦しい時期でした。とりあえずこれを最後にチェルフィッチュから離れようと決意しました。続けていても何も得られないし何も与えられないだろうと判断したからです。当時、誰に言ってもどうせ辞めないだろうとあまり取り合ってもらえませんでしたが…。
最後の公演をやり遂げた時には妙な安堵感がありました。もうチェルフィッチュやらなくていいんだっていう。あんなにチェルフィッチュなしには人生を考えられなかったのに。変な気分でした。ものすごく悲しいのに、ものすごく嬉しかったんです。あの不思議な気持ちが、達成感というやつかもしれません。
Q2 チェルフィッチュの舞台を観客として観劇することがあったと思いますが、外側から見て何か感じたことがあればお聞かせください。また、近年の岡田演劇は方法論的に変化したとも言われますが、変化したもの・変わらないもの、思うところがあればお聞かせください。
久々に観たチェルフィッチュはなんか村上春樹っぽかったです。笑
陶酔感が強くなった点がだいぶ変わりました。それ以外はそんなに変わらない印象でした。
Q3 初演時には2000年代の若者の身体として舞台に立たれたわけですが、2017年の若者(全般/俳優)の身体について、どのような印象をお持ちでしょうか? また、リクリエーション版に出演する若い俳優にアドバイスするとしたら、どのような言葉を伝えますか?
(2017年の若者(俳優全般)の身体については…すみません、考えがまとまりませんでした。)
リクリエーション版に出演する俳優さんにアドバイスできることがあるとすれば。
自分自身の身体をつぶさに見つめてください。自分が本当はどこへ行きたがっているのか、何をしたがっているのかをよく知ってあげてください。たぶんものすごく怖いと思いますが、それを舞台に思い切り解き放ってあげてください。舞台上にはあらゆる可能性が無限に満ちています。だから大丈夫。自由に!
プロフィール
松村翔子(劇作家・演出家)
1984年、横浜生まれ。十代より舞台俳優として活動。2013年に演劇ユニット『モメラス』を結成し劇作・演出を始める。2017年、利賀演劇人コンクールにて優秀演出家賞一席受賞。