『三月の5日間』初演俳優アンケート:山崎ルキノ

アンケート構成:桜井圭介(音楽家、ダンス批評)

Q1 当時を振り返って、出演者=俳優として、チェルフィッチュそして『三月の5日間』は、どのような演劇だったとお考えでしょうか? あるいは、自分はどのように舞台に立っていたのか?について、お聞かせください。

私がそれまでにやってきた演劇は、舞台上での身体というのは日常的な体の動きと同じであってはいけない、「舞台用の無駄のない美しい立ち姿」というか、扉を開ける・コップを手に取る・振り向く・座る、そのような動作をする時、余計なものを省いた、物語を邪魔しないような動き方、あるいは逆にちゃんと意味を説明できるような動き、をしなくちゃいけない、するべきだ、というものだったと思いますが、岡田さんの場合はそれが真逆で、 その岡田さんの身体の捉え方は私にとって新しかった。 ◯◯について話す、という時に◯◯とは全然関係なく体が動く時が日常ではたくさんあるよね、という、今まで私の中では「無駄」として省かれていたノイジーな身体、それこそが豊かな身体であり、その動きにもちゃんと根拠があって、その根拠は◯◯の話をしようとする時にイメージしているものの中にあり、そういうところから出てくる身体をやる方が絶対に面白いはずだ、というこだわりは強かったと思います。 そういう身体を毎回のステージで安定して出すために稽古では、俳優の身体が台本の「言葉」に寄り添ってしまいがちなところを、俳優の頭の中のイメージを強くしそこから身体を出す、ということを繰り返し繰り返し、ひたすら繰り返していたと思います。
今思えば、『三月の5日間』が持つ戯曲の力は相当なものだったのだと思います。当時は、戯曲(台詞)、演出、俳優の身体、スーデラでお酒を飲みながらみたいな上演形態さえも、が全部ごっちゃになってチェルフィッチュという「スタイル」として括られていたように思うのですが、年月が経って振り返ってみると、何よりもまず、岡田さんが『三月の5日間』という戯曲を書いていなければ、ここまで強い演出や俳優の身体はうまれなかったのかもしれないと思えてしまいます。
初演から13年たった今、また新しく上演ということに、実はそんなに驚きはなくて、「でしょうね、だってこれはたくさんの人が観るべき作品だもの。」と内心思ったりしていますが、どうやら今回は言葉をだいぶ書き換えたらしいときいて、それに関してはほんの少しだけ動揺しているかもしれません。

2004年『三月の5日間』初演:山崎ルキノ

Q2 チェルフィッチュの舞台を観客として観劇することがあったと思いますが、外側から見て何か感じたことがあればお聞かせください。また、近年の岡田演劇は方法論的に変化したとも言われますが、変化したもの・変わらないもの、思うところがあればお聞かせください。

観客として観た時のチェルフィッチュは、岡田さんという人が舞台上の俳優に姿を変えて、大声を張り上げたりはしないのに、遠慮なくずかずかと私のプライベートな場所に踏み込んでくる感じ、その遠慮のなさの度合いが私は好きなんだと思いますけど、劇場を後にする時は、言葉にできないモノを抱えて「あーーーーー」って思いながら、そして「この作品観られてよかったな」に落ち着く、という。そんな感じです。
出産のためしばらく離れ、また数年ぶりに『現在地』『わかったさんのクッキー』でご一緒させていただきましたが、その時に感じたことは、俳優に多くを任せるようになった、ということ。初期の岡田さんは、発する言葉(台詞)や身体の動きの元となる俳優の頭の中のイメージの部分まで細かく演出されていたと思いますが、今は、観客の頭の中に見せたい世界を浮かび上がらせることができれば俳優は自由にやってくれていい、というふうに変わってきたという印象です。
変わっていないこと、として一つあるのは、「お話会」と呼ばれている(かな?)作品の稽古が始まる前にいつもやっていることですね。俳優のだれかがなにか短いお話、昨日あった出来事や家族の話、何かについての感想や感じた事などを話して、次に、別の俳優がそれと同じ話をする。これは初期の頃からずーっとやっていますね。誰かの出来事を自分のこととして話す、という「演技」の根本な気がします。これを「稽古」ではなく単なる雑談みたいな雰囲気でやっている。この「お話会」の時間が楽しくて好きです。

2004年『三月の5日間』初演:山崎ルキノ

Q3 初演時には2000年代の若者の身体として舞台に立たれたわけですが、2017年の若者(全般/俳優)の身体について、どのような印象をお持ちでしょうか? また、リクリエーション版に出演する若い俳優にアドバイスするとしたら、どのような言葉を伝えますか?

自分より若い世代の俳優さんに対しては、上手だなぁ、スマートだなぁ、センスがいいなぁ、そんなんばっかりです。概ねいい印象です。自分はもっと、あーでもないこーでもないと悩みまくってた気がしますから(笑)。ずいぶんとサラッと、とまでは言いませんが、私が苦労して手に入れたかったものを上手に身に付けていくなぁ、という…まぁ印象ですけどね。印象です(そう簡単には認めたくない笑)。
リクリエーション版に対する期待はもう、すごく大きいですよ。すごく楽しみにしていますし、この作品は個人的にもすごく好きなのでわくわくしています。単なるファンですね、『三月の5日間』のファン。自分が出演していた時より面白かったら悔しいな、とかそういう感情も全くありません。「面白い演劇が観たい」、完全にその気持ちの方が勝っています。
アドバイスだなんてできる立場ではありませんが、私が昔から密かに思っているのは、チェルフィッチュは観るより演る方が面白いんだぞ、ってこと。これを感じてくれる人がいたら嬉しい。岡田さんの言葉を信じきってみること、これをぜひやって欲しい。その難しさをもう実感している方もいると思いますが、思い切って、馬鹿みたいに、岡田さんを信じられればきっと大丈夫、間違いない、ってことをお伝えしたいと思います。

2004年『三月の5日間』初演:山崎ルキノ

プロフィール
山崎ルキノ(俳優)
神奈川県出身。高校卒業後、湘南の劇団P.E.C.T.に在籍。退団後、チェルフィッチュと出会い参加するようになる。主な参加作品は『三日三晩、そして百年。』、『三月の5日間』、『クーラー』、『フリータイム』、『現在地』など。過去にはチェルフィッチュの他に、劇団サンプル、マームとジプシーなどに出演。現在は一児の母として子育てに励みつつ“ワルイコ”という音楽ユニットでライブ活動もしている。