『三月の5日間』初演俳優アンケート:瀧川英次

アンケート構成:桜井圭介(音楽家、ダンス批評)

Q1 当時を振り返って、出演者=俳優として、チェルフィッチュそして『三月の5日間』は、どのような演劇だったとお考えでしょうか? あるいは、自分はどのように舞台に立っていたのか?について、お聞かせください。

僕はもう今年で40歳になりますが、当時はまだ20代後半で様々なジャンルの舞台に立ちまくっていました。そんな中でも極めて特殊な舞台だったと思います。
いや、だって舞台装置もないし衣装も私服だし、あの台本ですよ?普通の演劇は観ている人間に伝わりやすいように作家が洗練した言葉が台本になっているんですがこれは日常の、しかも話し方が下手な方の人の言葉が台本になってる。
もちろん一緒に仕事をする前から岡田さんの事は知っていましたが「あんな舞台、俺には出来ない」と思っていましたし「岡田さんも俺みたいな俳優には興味がないはずだ」と勝手に思っていたのでオファーが来た時は驚きましたし、台本が来た時にはもっと驚きました。稽古中も本番中も、これまでの俳優人生の中でやった事がない事ばかりを求められ超パニクりましたが、同時に物凄く面白かったです。
今でも覚えてますが、芝居の最初の方の六本木の地理を説明するシーンの稽古中に岡田さんが言ったんですよ、「頭の中に描いている六本木の地図を俯瞰で眺めながら話して貰って、この部分から実際に歩いてる景色を思い描いて下さい」って。目に見える演技のダメ出しをしないで脳内で何を思い描くかのダメ出しでした。そしてその稽古が普通に数時間ぶっ続けで休憩なしで。台詞を入れたら後は何とかなると思っていましたが台詞が完璧に入ってからの方が地獄でした。そんな風に仕上がった舞台が好評でめちゃくちゃ嬉しかったです。ただ「岸田戯曲賞に応募しようと思う」と岡田さんが言った時も「えー、マジすかー?」と全員が言ったし岡田さん自身も「もし受賞したらブラジャーをつけて授賞式に行くよ」と言ってました。それぐらい、全員が「今の演劇界での今作のポジション」はすげー特殊だと自覚していたと思います。岡田さんから岸田戯曲賞受賞の知らせを電話で聞いた時、「おめでとうございます、ブラジャー買いました?」と聞きました。岡田さんはめちゃくちゃ笑ってました。

2004年『三月の5日間』初演:瀧川英次

Q2 チェルフィッチュの舞台を観客として観劇することがあったと思いますが、外側から見て何か感じたことがあればお聞かせください。また、近年の岡田演劇は方法論的に変化したとも言われますが、変化したもの・変わらないもの、思うところがあればお聞かせください。

僕が最後にチェルフィッチュを見たのは2010年だと思います。僕が最後に出た2006年から既に4年が経過していて、物凄い遠くに行ってしまったんだなぁと客席から眺めた記憶があります。
そもそも「岡田演劇の方法論」というものを僕はあまり理解していなかったんですね。ヨーロッパツアーが終わったぐらいでしょうかね、岡田さんに「岡田さんが求める演技や肉体を全く体現できてない僕になんでオファーくれたんですか?」と聞いたら「稽古場が楽しくなるから」と言われたほどですし。僕、フランクな風を稽古場に吹かせていただけなので方法論の事はきっと別の人が語ってくれるかと。でも何年も全然会ってなくても再会したら昨日も会ったみたいに「やあ」って言いそうなんですよ、岡田さん。

2004年『三月の5日間』初演:瀧川英次

Q3 初演時には2000年代の若者の身体として舞台に立たれたわけですが、2017年の若者(全般/俳優)の身体について、どのような印象をお持ちでしょうか? また、リクリエーション版に出演する若い俳優にアドバイスするとしたら、どのような言葉を伝えますか?

あぁ、全く別物なんでしょうね。スマホもなかった当時の僕らと現代の若者はきっと色々な所が根本的に違うような気がします。良い悪いではなくて違うだけなんですけど。きっとリクリエー
ション版に出演する若者は“あの名作に出演するんだぜ!”みたいな興奮や責任など多少なりとも感じているとは思うんですけど、ぜひ気楽に楽しんで頂けたら嬉しいです。

2004年『三月の5日間』初演:瀧川英次

プロフィール
瀧川英次/赤ペン瀧川(俳優、映画コメンテーター)
俳優・瀧川英次として様々な舞台・ドラマ・映画に出演。ドラマ「ドクターX」「下町ロケット」他2018年公開の「孤狼の血」にも出演。
と同時に、映画コメンテーター・赤ペン瀧川として独自の目線で様々な映画を紹介している。