林央子(編集、執筆)
「三月の5日間」が初めて観たチェルフィッチュの演劇だった。衝撃のなか、本を買った。『わたしたちに許された特別な時間の終わり』。舞台の俳優たちのたたみかけるような語り口調が、活字になって紙の上に現れている。言葉の渦に飲み込まれるように文字をおっていく。文学と演劇が融け合った文劇とでも言うべき新ジャンルをチェルフィッチュは拓いてきたのではないだろうか。一見地味、だけどその実何を考えているかわからないというような、いわゆる、日本人らしい拓き方で。チェルフィッチュを観たあとは、日常への意識がちょっと拡張されて、どんなディテールも見逃さないぞという責めの気持になっていることが多い。その余韻に浸る時間も結構、楽しい。