長坂常(スキーマ建築計画代表、建築家)

会場からラフなかっこをした観客のような役者がふらり現れ、真ん中に立ち、「それではAさんの話をしまーす。」と解説なのか演技なのかわからない感じのままおもむろに舞台は始まり、 「 」をつけて説明されている他者であるAさんがそのうち「 」がとれ当事者のAさんになる。その時、僕たち客は僕たちがいるこの場所から一気にその想像の場所に連れて来られる。しばらくその中にいたら、その想像の世界のライブハウスがこの我々がいる場であることをつげられ、一瞬想像の世界から再び会場に連れ戻され、またAさんは「 」に閉じ込められる。そのうち、休憩時間と言われ、それが台詞なのかアナウンスなのかわからない間に役者と客が入り混じり、その光景をみて休憩と理解し、僕はその中をすり抜け、地上に上がり六本木通り沿いを歩いてサンクスに。中に入ると店員がコインの束を繰り返しカウンターの角にぶつけながら崩す様を見て、さっきの演技とラップし、また会場に連れ戻される。そんな不思議な越境する体験が生身と肉声のみ、全くセットに頼らない中で作られ、学生の頃から漠然と疑問に思っていた舞台への疑いが全て晴れたそんな三月の5日間の話でした。