俳優インタビュー:石倉来輝(1997)

撮影:竹久直樹

演じることで褒められたことがあって、そういうことでしか人に褒められることがなかった

山口博之 :

97年生まれの20歳、今回の俳優のなかでいちばん年下ですね。

石倉来輝 :

はい、そうなんです。

いまは大学生ですか?

大学には行っていなくて、都立の高校で唯一芸術系の専門学科がある都立総合芸術高校の舞台表現科に行きました。そもそも高校に行きたくなくて、そういうところならと。

勉強が嫌いだった?

僕、多動症なんですね。じっとしているのが無理で、もう普通に授業受けるのは無理だーって。小さい頃は何の検査かもわからず、いろいろな検査を受けました。脳波を調べたり、円をなぞったり、朝起きてから家を出るまでの間の行動に関するカードがあって、それを並べ替えたり。勉強は嫌いなりに好きなのもあって、国語、物語を読んだりするのは昔から好きでした。どういう風に好きだったかというと、この人はどう思っていたでしょうという問題に点数が付くじゃないですか。そういうのをうぜーなと思いつつ、本当はそうじゃないと思うけどねと、考えてるのが楽しかった、という……。

なるほど、ひねくれてますね(笑)。高校では演劇を学んでいたんですね。

舞台表現科には演劇と舞踊の専攻があって、僕は演劇でした。なぜその学科だったのかはっきりとした理由はないんですが、音楽も美術もずっと昔から教育を受けてきた人たちが来ていて、舞台表現科は初めての人間でも入れると思って選んだんだと思います。

演じることをそこで始めた。

多動症だからは言い訳かもしれないですけど、演じることで褒められたことがあって、そういうことでしか人に褒められることがなかったんです。だから楽しかった、のかな。後はもちろん演じることが楽しかったというのはあります。何をやっても許されるというか。

舞台上ではということですか?

そうですね。小さい頃から演じるみたいなことが好きだったんですね。昔はずっと女の子になりたくて、セーラームーンが大好きでずっとセーラームーンごっこをやっていたり、トイザらスで売っているセーラームーンの衣装を保育園で着たりしてたんです。

それはいつごろまでやっていたんですか?

小学校卒業する頃にはもうその気持はなくなってましたね。女の子になれないということを信じていた気がします。逆に今は女の子には全くなりたくなくて、絶対イヤだと思うんですけど、女の子の服を着たいとは今でも思ってます。女性の服いいな、スカート超いいなって。

では、『三月の5日間』の2003年は、どんな子どもでした?

6歳とかだったので、あまり覚えてないんですが……、女の子になりたかったこと以外だと、レゴが好きだったのは覚えてます。

私たちは演じる人、あなたたちは観る人、さあ観ててねみたいなものに飽きていた

6歳は確かにあんまり覚えてないですね(笑)。高校卒業後、演劇をするために大学への進学は考えなかった?

大学に行くとしたら、人と知り合うという意味でしかメリットを見いだせなくて、大学で演劇を学ぼうとは思えなかったんです。そもそも学校というシステムで芸術とか演劇とかを教えてもらうのって微妙だなと思っていて、大学に教わりに行くのじゃなくて自分でやっちゃおうみたいな感じでした。
卒業した年の4月に古舘寛治さんが演出した『高き彼物』という作品のオーディションに受かって、そのままフリーの俳優生活が始まった感じです。
『高き彼物』に出て、それが自分の基盤みたいになりました。オーディションに参加したのは、古舘さんがチェルフィッチュはすごいみたいな話をしてくれていたのもあったのかもしれません。『高き彼物』が終わったタイミングでオーディションの情報があったから、これはという感じでした。

それまではどんな演劇を観たり、演じたりしてきたんですか?

高校の先生が文学座から来ていた方多くて、新劇のスタイルだったんです。劇場というサイズで決められた作品を教わってたり観に行ってたりしていたら、だんだんおもしろくなくなって、徐々にフランクな小劇場を観るようになっていきました。

チェルフィッチュを知ったのは?

高校の演劇概論という授業で扇田昭彦さんが講義に来てくれたことがあって、いろいろな映像を見せながら説明をしてくれた中に『三月の5日間』もあって、それで知りました。その後、東京都現代美術館の「東京アートミーティング」でやっていた岡田さんの映像インスタレーション作品「4つの瑣末な駅のあるある」も観て、すごいおもしろいと思ったんです。その後、『女優の魂』は二回観ていて、新宿ゴールデン街に高校の後輩二人を連れて行きました。その時、これをつくった人と話がしたいと思って、そこで岡田さんと話をしたこともありました(岡田さんも制作も、石倉くんとは知らず高校生が来て熱心に観てくれたことだけは記憶していました)。『God Bless Baseball』も観ました。最高に好き。

チェルフィッチュはこれまで観てきた、やってきた演劇とはいろいろな面で違ったと思うのですが、観た時どう感じました?

すんなり観れましたね。新劇的なものというか、私たちは演じる人、あなたたちは観る人、さあ観ててねみたいなものに飽きていたんです。しかも、そうした芝居は、私たちかっこいいでしょとやっているように感じてしまっていて、嘘で固められちゃってる感じが嫌でした。チェルフィッチュはそうじゃなかった。

撮影:竹久直樹
撮影:竹久直樹
撮影:竹久直樹

フィールドを舞台に限らなくていいんじゃないか

今回のオーディションは、岡田さんが国内外への公演のあり方や若い俳優とつくるこれからの演劇の可能性、社会に対して持ちうる力等々について考えていたかと思うのですが、石倉さんはどう思っていました?

オーディションで話したことを思い出していたんですけど、何を言ったかというと、場所を作るということにすごく興味があるって話をしたんです。場所をデザインすることが重要だと思っていて、もしかしたらこれから俳優じゃなくて演出とか場を作る方になるかもしれませんと。システムみたいなものを作っていくようなことに興味があったんです。でも最近は、場所を作るような客観的なことは考えられなくて、公演に向けてまっすぐ前しか見れていません……。一方で役者じゃなくてもと思えてきた、というか演劇じゃなくてもいいかもとも思えてきてもいて、でもそれでもやっぱり演劇やっているのかもとも思うようになっています。ややこしい感じですね……

演劇じゃなくてもいいというのはどういう意味ですか?

自分が演劇をやっていて、演劇が日常を潤してくれることがすごくよくあって、逆に日常が自分の演劇を潤してくれることもある。それがすごくいいなと思うんです。でも、それが自分の中で完結してしまうのはもういいなと。これをもっと広げていこうよって。だったら僕が劇場で何かすることよりも、劇場よりも日常にいる時間の方が長いんだし、フィールドを舞台に限らなくていいんじゃないかって思っています。なんか、みんなパフォーマーだなって思えるようになってきていて。

みんなというのは演劇をやっている人以外の人も、ということ?

そうです、そうです。日常の中でも自分があることをしようとしたら、それはパフォーマンスだよなって。だからこそ舞台等で演劇をやる意味が、すごくあるといま改めて感じてもいます。もっと広い視野で何でもあっていいという風にできるんじゃないかなって。

ただならぬ危機感を持つ題材を扱いながら、その危機感と共に毎日稽古場に

昔から比べると演じることが自由になってきているということ?

そうですね。『三月の5日間』を読んだ時もそう思ったんですけど、ブラウン管の向こうで大変な事件が起こっていてそれを見ている自分がいる、すごい距離があるんだけど通じている危機感みたいなものはある。そういうのをすごい感じたんです。7月に穂の国とよはし芸術劇場 PLATで1週間のレジデンス稽古をしていた時、みんなで暮らしてみんなで移動して稽古する。ただならぬ危機感を持つ題材を扱いながら、その危機感と共に毎日稽古場に通って、この通い続けている時間の間にも絶対誰か死んでいるんだなとか考えて、自分何をしているんだろうと思ったりしていました。
豊橋レジデンスの最終日に公開リハーサルがあったんです。リオンくんと公園を散歩していたらおばあちゃんに声を掛けられて話をして、僕たち俳優で最終日こういうのやるんです、よかったら来てくださいって話をしたら本当に来てくれたんです。そのことが、マジすげーと思えたというか。見えないところで誰が死んでるとかじゃなくて、見える人、僕がチェルフィッチュの俳優として豊橋に来なければ一生話すことがなかったはずの、見えない壁があるはずのおばあちゃんを、それがあってなお取り込めた、来てもらえたということがすげー!と素直に思ったんです。昼間からおじいちゃんと公園でビール飲んでるようなおばあちゃんですよ。絶対劇場来ないっしょみたいな人が来てくれたのは大きかった。

撮影:竹久直樹
撮影:竹久直樹

本公演の時も公園に行ってお誘いしないとですね。作品も徐々にかたちが見えてきましたが、稽古はどうですか?

他のみんながすげーなと思います。僕は今までの演劇の方法論から、想像力と演じることの関係をまだ掴みきれていないというか、岡田さんの言っていることが徐々に理解できるようになってきたところです。これまでと回路が全然違うので、毎日「おい! 俺の体!」と叫んでます。

撮影:竹久直樹

石倉来輝(いしくら りき)
1997年生まれ。東京都出身、東京都在住。2016年3月に都立総合芸術高校を卒業。主な出演作に、2017年 古舘寛治演出/マキノノゾミ作 SPAC『高き彼物』、スイッチ総研、パルテノン多摩×FUKAIPRODUCE羽衣『愛いっぱいの愛を』などがある。
twitter:@ishikura_riki
Instagram:rikiishikura

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