第62回岸田賞の選考とかの日々

  • 朝、神里雄大氏「バルパライソの長い坂をくだる話」。初読。マルかサンカク。ここには僕にとって〈おもしろい〉と思えることがたくさんある。神里氏の作品を読むと、多くの日本の観客が彼の感性に触れる経験をしたらいいのに、触れてそれを自分たちが無意識に前提にしている〈日本の私〉みたいのを変容させる契機にしたらいいのに、という割と啓蒙主義的余計なお世話的なことを思ってしまう。そういう気持ちで前々回の候補作であった彼の「+51 アビアシオン, サンボルハ」も推したが、今回も同じような気持ちを持つ。
    いくつかのエピソード、特に沖縄の焼き鳥屋の店員の若者のエピソードに対して感じたのは、話されている内容はとてもおもしろいのだがそれがここではただ話されているだけじゃないか、ということ。でもそれは必ずしもマイナス要素とは限らない。大いに評価するべき点だとまでは思わないけど、このテキストを用いた上演がおもしろいものとして舞台上で立ち上がるかどうかは、それを話す俳優のたたずまいや味わいに委ねられていること、それは演劇的なことだと思うから。
    問題は、亡くなった父親の灰を撒きに出かけよう、と車の中に引きこもる母親に話しかけ続ける息子、という本作の設定ははたしてうまくいってたり、詩的ななにかとして結実してたりするのかどうか、ということで、そこがまだ判断つかない。先送りにする。
    台本執筆。劇場入り。お話し会。「三月の5日間」豊橋公演2ステージめ。初演から27ステージめ。アフタートーク。フィードバック。ホテルに戻る。サリngROCK氏「少年はニワトリと夢を見る」。初読。バツ。なにもおもしろいと思えない。拙い。豊橋公演打ち上げ。

  • 台本少し書いて、劇場入り。お話し会。「三月の5日間」豊橋公演1ステージめ。横浜での初演から数えて26ステージめ。フィードバック。四月にオープニングを迎える熊本現代美術館での映像演劇作品についての打ち合わせ。

  • 午前中、台本執筆。午後から穂の国とよはし芸術劇場 PLAT に入る。お話し会(チェルフィッチュがやってるウォームアップ的なもののことです)。照明音響のデザインの確認。ゲネプロ。フィードバック後、少し返し稽古。

  • 午前中、台本執筆。午後、シアターコクーンでシディ・ラルビ・シェルカウイ氏演出「プル—トゥ PLUTO」観劇。上演台本は二日まえに見た「三文オペラ」の演出を手がけていた谷賢一氏。この上演台本に関して戯曲として云々したい点というのは特にない。夜、新幹線で豊橋に移動。車中で「社会運動と若者」読み終わる。おもしろくてぐんぐん読み進めてしまった。

  • 「三文オペラ」が候補作だったら僕は選考会でマル・サンカク・バツの評価のうち、マルを付けるだろう。泥棒と乞食と警察の、対立及び癒着の構造。その設定だけで観客をたくさんムズムズさせることができる。ディズニーの映画「ズートピア」を思い出した。「ズートピア」ってブレヒトだな。
    「三文オペラ」の登場人物のせりふ特に長ぜりふには、作者の思考・思想がもろに反映されている部分も多い。作者の考えを代弁しているようなせりふは、僕の知る限りの岸田賞の選考会の雰囲気の中では、マイナスの評価を受けやすい。けれども、僕は「三文オペラ」のそこは肯定的に評価したい。問題はそのせりふがおもしろいか、おもしろくないかだ。ブレヒトの言ってることはおもしろい。
    主要キャラクター(泥棒マクヒィス、乞食ピーチャム、警察タイガー・ブラウン)が男性で、女性キャラクターはみな彼らの「妻」なり「娘」なり「愛人」なりでしかないように思える。この点は選考会で批判されうる。もっとも、ポリーとルーシーがマクヒィスに惚れることは事態が露わになるためのシンプルな手立てなのだけれども。。
    候補作一式、実家に無事届く。糸井幸之介氏「瞬間光年」。初読。バツ。自分にとっておもしろいと思えることが、ここにはほとんどなかった。宇宙、という壮大な観点から人間たちの愛すべき卑小さを見渡す、という設定じたいに、のれなかった。木星に接近すると(木星を構成する主要元素のひとつはヘリウムなので)宇宙飛行士たちの声が甲高くなる、というネタはおもしろかった。
    僕にとっておもしろいものとはどういうものかというと、たとえば、生ゴミ臭たち、というキャラクターがこの芝居には出てきて、彼らにとってゴミ収集車に持って行かれるのは末路としてだいぶマシで、最悪なのはカラスにさらわれちゃうことだ、というくだりがあるけれども、この価値判断がもし反対だったら、つまり、たとえば焼却炉の業火で燃やされるなんてやだな、カラスと一心同体になって空高く舞い上がる最期のほうがずっといいよ、とか書かれていたらそれは僕にとっておもしろい!ものになったと思う。

  • 先週は一週間ほど中国にいた。出発前、白水社の担当の方とやりとりして、岸田賞の最終候補作一式を熊本の自宅に送っておいてもらうことにしていた。18日から20日まで「三月の5日間」北京公演。21日に羽田に戻ってきた。その日のうち熊本まで戻るつもりが家族がインフルエンザに罹患したとのことで、帰ってこないほうがよいということになり、横浜の実家に行く。というわけで候補作をまだ把握できていなかった。そしてこの日、白水社のサイトで最終候補作品が発表されたのを見て、今回のラインナップを知る。きのうの関東の大雪の影響による遅配とかがなければ、候補作一式は熊本から実家に翌日届く予定。
    日中、台本執筆。夜、神奈川芸術劇場で谷賢一氏演出「三文オペラ」見る。
    数日前から、近く対談することになっている富永京子さんの著書「社会運動と若者」を読んでる。