「三月の5日間」リクリエーション 稽古場レポート

7月から豊橋の穂の国とよはし芸術劇場PLATで7日間、横浜のKAAT神奈川芸術劇場で4日間に渡り、「三月の5日間」リクリエーションの最初の稽古が行われた。第一弾稽古最後の日、KAATのアトリエにお邪魔し稽古の様子を見学させてもらった。

テキスト:山口博之
写真:石黒宇宙

ロの字型に並べられたテーブルに座った俳優たち。この日はまず交通費の清算から始まった。書きなれない書類に手こずる人やとりあえず筆記用具を全部出してしまう人、すんなり書き終える人など、事務作業は芝居とは別の各人の個性が見えてくる。

そして、毎日行われているウォーミングアップから稽古が始まった。みんなで輪になり、稽古場に来るまでの話や昨日あったこと、自分の家族のことなど、自由に話すことを決めてひとりずつ話していく。次の人は、前の人が話した内容を自分のこととして改めて語り直し、その後で自分のことを話すというのを繰り返す。人の話を自分の話として語り直すという作業は、「三月の5日間」における伝聞と語りの構造を思い出させた。思っているほど理路整然としているわけではない人の語りをどう聞いて、どんな解釈をするのか人によって違いが現れていた。前の人が話したように正確に話そうとする人もいれば、整理して短くスパッと終わらせる人も、途中で内容を忘れむにゃむにゃする人もいる。キャラクターによっておもしろさが出ていた話しが急に何でもない話になることもあるし、身振りや表情が違ってくることで独特のニュアンスを帯びることもあった。

席に戻り、本読みが始まる。この日までにおおよその配役も決まったそうで、役を想定した形で読み手が指名されていくのだけれど、時にあるテキストをその役の人が読むということだけでなく、他の人が読む自分の役のテキストを聞いて、読み込むべきことを見出していくという作業も一緒に行われていた。読みを聞いた岡田さんから随時テキストに細かな修正が施され、少しずつ言葉の表情が変わっていった。

時に席を離れて広いスペースに立ち、身振りや動きをつけながら本読みを繰り返していく。岡田さんがこうしてくれ、ああしてくれという指示を出すのではなく、いま何をイメージして演じたのかを尋ね、答え、どんな新たな気付きがそこにあったのかを共に探っていく。

石倉来輝さんと米川幸リオンさんが演じたデモを説明するシーンについて、岡田さんの話しが興味深かかった。「シーンや風景、感情を想像することとそれを言葉にすることの間には、おもしろいミスマッチがある。喋るスピードをすごく早くするには限界がある、つまり言葉にしていくということに。言葉にしていくよりも早く、勢いでバーっと想像すること、イメージが来ちゃうこともあるんじゃないか。つまり水道をイメージしてもらうといいんだけど、水を出すスピード、ペースには(蛇口が)全開でも限界がある。でもそれをものすごく溜めてから流したら大変なことになる。もしくは溢れるというか。そういうのが起こったらおもしろいんじゃないか。(溜めた)タンクが爆発するみたいな。逆はつまらないと思うよ、枯れちゃうみたいなのは。処理しきれないほどブワーッと来て、でもやるだけやりますみたいなふうにやった結果がこれですみたいな、というのが観れたらおもしろい。完全に破綻してるじゃない。でも、そういうのができてくるとおもしろいのができてくる。」
破綻した演技がおもしろいというのはどういうことか。上の岡田さんの言葉を踏まえて演じた石倉さんの演技は、言葉だけでなくしぐさにも大きな変化が見られ、過剰なイメージに対して言葉としぐさが増幅された上でそれらがちぐはぐな印象になっていた。これは『「言葉としぐさの関係は、つまりこうです。線が引かれ得るとするなら、それは〈イメージ〉と言葉の間に引かれます、また同様に、〈イメージ〉としぐさの間にもそれは引かれます。したがって、言葉としぐさとは、〈イメージ〉を介した間接的な関係をしか、結びません。」だから、ことばとしぐさの間に「親子関係」のようなものを想定してはいけない』と、細馬宏通さんがこのウェブの連載で引用した岡田さんの言葉にもあるように、イメージを介した言葉としぐさの関係が直接的な親子関係にないということの変奏だったのかもしれない。岡田さんはセリフのことについて主に話していたが、言葉と間接的な関係で結ばれるしぐさも過剰なイメージによって変化し、それによってチェルフィッチュがやってきた言葉としぐさのズレのおもしろさが生まれるんだ、ということを意味していたのではと思った。

伝聞形式のなかで入れ子構造的に役を演じることになる芝居にあって、例えば、「ユッキー」を演じることと「ユッキーていう人」を演じることの違いについても、考えるべきこととして会話がされていた。細馬さんが言及した“話法”について、これまで以上に興味深い展開が見られるかもしれない。これまでの公演と男女比が逆になったリクリエーションの「三月の5日間」。徐々にフォーカスしていく具体的なポイントも見え始めてきているようだった。

一度見たことのある人は気になるであろう「ミッフィーちゃん」は一体だれになったのかも含め、本番はもちろん、本格的な稽古に入る10月が楽しみだ。

『三月の5日間』リクリエーション 公演情報
https://chelfitsch.net/activity/2017/06/57.html

  • 山口博之 (編集)

    1981年仙台市生まれ。立教大学文学部英米文学科卒業。大学在学中の雑誌「流行通信」編集部でのアルバイトを経て、2004年から旅の本屋「BOOK246」に勤務。06年、幅允孝が代表を務める選書集団BACHに入社。様々な施設のブックディレクションや編集、執筆、企画などを担当。16年に独立。様々な場所のブックディレクションをはじめ、ブランドや広告のディレクション、さまざまな編集、執筆、企画などを行っている。

関連作品

関連記事