俳優インタビュー:朝倉千恵子(1994)

撮影:竹久直樹

ちゃんと演じるということではこれが最初です。

山口博之 :

今回唯一の学生ですね。

朝倉千恵子 :

今年24歳になります。東京藝術大学(藝大)の大学院でメディア映像専攻の2年生なのですが、卒制と今回の舞台がかぶったので、いま休学しています。

大学ではどんな作品を作っているんですか?

自分自身が出るパフォーマンス作品を作っています。でもまだ模索中です(笑)。「私の不確定さ」に今、興味があって、稽古前の毎回のお話し会(稽古場レポートのウォーミングアップ参照 https://chelfitsch20th.net/articles/250/)をしていても、私が話したことを他の人も自分のこととして話しができちゃうじゃないですか。その時わたしはどこにいるの? みたいなことです。語りの問題としては岡田さんが扱っていることとも共通するんですけど、不確定さをどう表現しようか、言葉のチョイスも人それぞれによって違うよなって。お話し会でも、みんな使う言葉が違うから「ジョキジョキ」と前の人が表現したものを、次の人は「パツパツ」と言ったりしているのを聞いて、「ははぁぁ」とか思って、おもしろいよなーって。

お話し会を見ていたんですが、他の人の話しの時、朝倉さんすごく頷いてますよね。

そうくるかと思いながら、頷いてたかもしれないです。

パフォーマンス作品では何か役を演じるということもやってきたんですか?

いえ、パフォーマンスは演じてはいなくて、ちゃんと演じるということではこれが最初です。セリフを覚えるとか「すごっ」って思いましたし、人の言葉を借りて喋るとか難しい。だから他のみんなすごいなって…。ミッフィーちゃんになりきってるよね、みたいに言われた時も、「あ、今なっちゃってるんだ…!」みたいな。役と自分の距離感とか、難しいです。

やっていることが全部初めての感じなんですね。

そうです。ほんとに。

大学は学部から芸大ですか?

武蔵野美術大学(ムサビ)の映像学科でした。その前は二年間、大阪芸術大学(大芸)に行っていて、ムサビに編入しました。

美術大学に行きたいとは昔から決めていたんですか?

いや、全然(笑)。私、薬剤師になりたくて高校で先生に相談したんです。圧倒的に文系向きの成績だったので、「なんで薬剤師になりたいの?」って先生に聞かれて、「お薬の調合がふつうにしたい」「いや、ダメだよ」みたいな。「そんな単純なものじゃないし、朝倉は文系だから文系に行きなさい」と言われ、「あー、じゃあ心理学部系いいなー」と思ってたら、やさしい美術の先生に会って、「朝倉、美大とかいいんじゃない」と言われて受験直前の12月に「じゃあ、大芸で……」と決めました。

じゃあ、特別美術が好きとか、表現欲求がという感じでもなかった…?

いや、美術は好きでしたよ。表現を観ることとか、ライブも映画も美術館に行くのも好きでした。

東京に出てきたのは2014年ですよね。『三月の5日間』で描かれる2003年、朝倉さんはどんな子どもでした?

9歳の私……。団地に住んでいて公園に行けば誰かがいたので、いつも公園に行っていました。一通り遊び尽くすとすべり台がすべり台じゃなくなって、本来とは違うあそび方ばかりしてましたね(笑)。後はモーニング娘。が好きでした。今も好きです。一度離れてまた好き。

神戸の震災は1歳で何も覚えていないと思うのですが、東日本大震災の時は17歳ですよね?

高校二年生でした。その日はバスケをやっていました。男女一緒にやっていたんですけど、男バスのOBの人が、「やばい震度7だ!」みたいに携帯を見せてきて、本当に無知なので「震度7ってやばいの?」みたいな感じでした。広島だからもちろん揺れてもいないし、実感はなかったですね。テレビを観ても「うわぁ」みたいな感じでした。

岡田さんの言葉はすごく入ってきて「伝え方すごっ」みたいな。

演劇(的)なものとの接点、距離は?

遅くて、ムサビに入ってから演劇好きな友だちがいろいろ教えてくれて、「あ、今まで演劇を意識してなかった」と、友だちが教えてくれるままにへいへいって付いていきました。その友だちがチェルフィッチュのオーディションがあるよって教えてくれたんです。

それまでにチェルフィッチュは観ていましたか?

すいません、DVDだけです……。作品として『三月の5日間』は知っていて、観たことなったのでDVDを借りようと思ったんですが、オーディション前だからぜんぜんなくて早稲田大学にまで行って面接の二日前に観ました。戯曲もアマゾンマーケットプレイスで値段が爆上がりで買えず……。

チェルフィッチュをどう観ましたか?

日常的な身振りとかを拡張させて、それを表現にしている感じ。ああいう身振りってたしかに自分もするなとか思っていたんですけど、実際稽古をして、テキストと想像のトラックの違いがあるとか、観てるだけだと日常の身振りをやってるのかなって認識だったんですけど、やってる人は別の想像をしてあの身振りが生まれてるんだって、今はそういうのがわかりました。
自分がパフォーマンスで存在の揺れみたいなものを扱っていて、先行事例みたいな作品をいろいろ観るわけなんです。その中で岡田さんの演劇論集『遡行 変形していくための演劇論』を読んで、岡田さんの話す言葉ってすごくわかりやすくて、エリカ・フィッシャー=リヒテの『パフォーマンスの美学』とか読むと「アウゥアウゥ」言ってしまうんですけど、岡田さんの言葉はすごく入ってきて「伝え方すごっ」みたいな。あっという間に読んでしまいました。想像から生まれてくる動き、六本木のことだったら、六本木という場所じゃなくて、具体的に六本木の光とかにおいとか、そこを歩いている人の身振りの想像みたいな、深く潜る方法がすごいなと思っていました。

自分のパフォーマンスは演じるのではないということですが、演じるということについて考えることはあったんですか?

パフォーマンスする時は等身大の朝倉みたいな感じだったので、人の言葉を借りて話すみたいなことはなかったですね。実はいま大学でPort Bの高山明さんのゼミにいるので、演技、演劇についてのゼミがあったりして、考える機会自体はありました。

社会的って言葉、なんか強くないですか…?
ちょっと怖いんですよね。

鑑賞者が何をそこで何を観ているかということでも演劇とは違う表現をやっていたわけですね。岡田さんが、演劇のこれからのあり方、社会的役割とか影響力とかを含めてオーディションをしていたと思うんですが、演劇的な表現と社会の接続について何か思うことはありますか?

わからないですけど、自分は自分の作品を作る時、社会的なものを作っている感覚はなくて、そのままの自分の日常を出す感じなんです。今回はイラク戦争とかフセインとか、名前が出てくるので社会的と観られるなと思うんですけど……。社会的って言葉、なんか強くないですか…? ちょっと怖いんですよね。それを背負うとすごい恐いから、岡田さんほんとにすごいと思うんですけど、背負える度胸がないというか、それを自分の作るものとしてバンと出すのはすごい…、友だちとも話すんです、「作品にとっての社会性とかどう思う?」みたいな。友だちに、そのことについて考えてることが社会的なことなんじゃないって言ってくれた時は救われた気はしました、あぁそうだよなって……。積極的に提示する勇気はまだないかもです……。

先生の高山明さんは、難民問題とかまさに社会な作品を作っていますね…

ほんとにすごいと思います。

先程話してくれた怖いというのは、批判を受けることへの恐怖?

そういうことって知識がないと提示しちゃいけないというか、自分のほんとの気持ちや知識があってこそ実のあるものがバンっと出せる気がするから、こんな若造が…という気持ちがあります。『三月の5日間』の私のセリフの中に劣化ウラン弾という言葉があるんですけど、知らなくて調べたんです。知らないまま発言するとか無責任じゃないですか。何知らないやつがなに喋ってんだよ、リアリティねえよ、みたいにお客さんがなるかもしれないし……。

撮影:竹久直樹
撮影:竹久直樹

社会的なことへの参加という意味で、先日選挙がありました。

選挙とか意識したことなかったんですけど、不在者投票に初めて行きました。他のメンバーがみんな選挙のこととかすごく話をするし、そっか私もやらなきゃって。

投票することにどんな意味を感じたということですか?

それこそ知識の有無の問題なんですけど、友だちたちと政治の話をしないんです。たぶん皆どこかで意識はしてはいると思うんですけど、話には出てこない。投票って重みすごくないですか? 紙なのにめっちゃ重い!と思って。ビビってます……。 しなきゃいけないから行くんですけど、自分の投票がほんとに良くなる方にできてるのかなとか、各党で言ってることもいっぱいあるから、どれを信じたら……みたいな。そういうことへの責任感が怖いというか、重いのかな。

感覚ではまだ17、8のままです……

初の演劇経験ですが、これからも続けていくことになりそうですか?

公演もまだ経験できていないので、全然わからないです……。

何かしら表現をする側にいたいと思っていますか?

思います、でも、生きるのにお金がいりますからね……。友だちとこれからのことをよく話すんです。美大なので就活する組としない組がいて、就活するけどいつか独立する人、就活しながらも制作できる環境を作るという人、完全に自由に作るという人に分かれてくるんです。あぁ、私どっちだ…!って。

まだ決まっていない感じですね(笑)

そうです。ヤバイです。あっという間に大人になりますね(笑)。感覚ではまだ17、8のままです……

撮影:竹久直樹
撮影:竹久直樹

朝倉千恵子(あさくら ちえこ)
1994年広島県生まれ。現在、東京藝術大学大学院映像研究科メディア映像専攻に在籍。2014年からパフォーマンスの制作を始める。2017年、年次成果発表会「MEDIA PRACTICE 16-17」にて『日々淡々とその日にそなえる』、『そのあとふりかえる、わたし、別のわたし、別のだれか』をBank ART Studio NYKで発表。
twitter:@asakura713

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