俳優インタビュー:渋谷采郁(1991)

撮影:竹久直樹

人って死んじゃうんだって思って。やりたいことをやろう

山口博之 :

91年生まれ、今回最年長ですね。

渋谷采郁 :

今年26歳、オーディション時はギリギリ24歳でした。

兵庫から東京に出てきたのは、いつだったんですか?

2年前で、大学を出て兵庫県の演劇学校に1年通い、お金を貯めてから東京に出てきました。大学は演劇とは全然関係のない学校で。

じゃあ、大学に入ってから演劇に興味が湧いてきた?

大学4年生の時に濱口竜介監督の『ハッピーアワー』という映画の撮影が神戸であって、そのワークショップ(WS)に参加して、そこからちゃんとお芝居がしたいと思うようになりました。

WSを受けたということは、その時点で芝居をやりたいと思っていたってことですよね?

何か、元々漠然とやってみたいなと思っていて、それまでオーディションを受けたこともあったんですけど、ちゃんと本格的に機会を得てできるようになったのはその時でした。

そもそもやりたいと思ったのは、何がきっかけだったんですか?

実家がテレビドラマをすごく観る家で、朝から録画したドラマを流してるみたいな。そういうのを観て育って、漠然とやってみたいとは思っていたんですけど、でも憧れに近い夢みたいな感じで、オーディションも通らなくて、神戸で映画撮りますというチラシを見て、神戸だったら通えるし、やってみようと思って受けたWSに受かって、半年くらい行きました。

そのWSが初めての演技の勉強的な感じだったんですね。映像からなんですね。

それが大学4年生の時で、実は当時関西のアパレルの会社に内定ももらっていたんですけど、お芝居やりたい気持ちが強くなっていたから悩んでいて。でも、できるのか……みたいな。その頃、祖母がなくなって、やりたいことがあるのにやらないなんて意味がわからないと思ったんです。ほんとに人って死んじゃうんだって思って。やりたいことをやろうと思って、内定を断って、兵庫に夜間で通える公立の演劇学校があって、そこに行きました。学費も安くて、年間12、3万くらい。授業も兵庫県立の劇場で行われるので、ホールを使って授業をしたり。

想像を持つことから始まって、感情については何も言わない

なるほど。ちょっと時間が遡りますが、2003年の頃、渋谷さんは12歳ですよね。

そうですね。小6ですね。こんな演劇をやるようなタイプの子ではなかったですね。引っ込み思案で人前に立ったりしない。スクールカーストの真ん中くらい。勉強は普通にできてたんですけど、体育と音楽が本当にできなくて……。走るのめっちゃ遅い。キレが悪い(笑)。

そういう意味では、芝居の中でもチェルフィッチュは向いてるかもしれないですね(笑)。特別何かをやっていたわけこともなかったんですか?

習い事も特にしてなくて、その頃から洋服が好きでしたね。お母さんが買っている雑誌を読んだり、小学生のファッション誌を見たり。でも、田舎だから載っている服が買えなくて、都会にすごく憧れていました。近くのジャスコにはなくて……。その頃なりたかったのもデザイナーでした。

演劇はいつから観るようになったんですか?

遅くて、大学生になってからちょこちょこ観たんですけど、本格的に観るようになったのは東京に出てきてからです。小劇場とかにすぐ行けるようになってからですね。

チェルフィッチュとの出会いは?

名前は知っていたんですけど、観たことがなくて。オーディションも知り合いの人がこれやってるよ受けてみたらみたいな感じで教えてくれて、本とDVDを貸してくれたんです。それを観て受けてみようと。だから『部屋に流れる時間の旅』が初の生チェルフィッチュでした。

実際、岡田さんと芝居をやってみてどうですか?

まったくやったことがないっていうくらい新鮮で、今までだと戯曲があったら登場人物がどういう人かを分析して、演出もこういう感情になるからこう言うよねっていうのが多かったんですけど、岡田さんは想像を持つことから始まって、感情については何も言わないんですよね。それでとにかく頭を使います。オーディションの時からそれは思っていて、使ったことのない頭を使ってるぞ、これはおもしろいって。こんな風に作ってるんだって。早く自分のものにしたいと思ってます。

これまで演じるということで考えていたのは、“役になりきる”みたいなこととしてあった?

映像ではそういう演出は受けなくて、たまたま教わった演劇の先生がそういう人が多かった。それはそれですごくおもしろかったんですけど、だからやってることが全然違くて。
この前、想像についてみんなに聞いたことがあって「想像って、みんなは2Dなの? 3Dなの?」って。私は2Dなんですよ。それに段々介入していくというか、立体化していくんです。でも、それは人それぞれで3Dの人もいれば、その時々で違うという人もいました。

撮影:竹久直樹
撮影:竹久直樹

おばあちゃんになっても続けたい

今回のリクリエーション後、俳優のみなさんが何をしていくのだろうと思うのですが、渋谷さんはどうですか?

何か、最初、演劇始めた時は自分がやりたいからやろうで始まっていて、人に観てもらうとかではなかったんです。その演劇を作ることが社会的にとか、観た人にどうこうというのは意識していなくて、でも、実際に上演してみるとお客さんからいろんな感想をもらって、その時に初めてちゃんと受け止める人がいるんだなって感動したんです。コツコツみんなで作ってきたものが成長していって、受け取った人の中でじゅわって広がっていくことを実感として持てて、それってすごいことだなって。映画の時は、自分が会ったこともない人が観るわけで、それってすごいなって。
今回のリクリエーションが始まって、その意識はより強くなってきた感じはします。岡田さんも観客をどう変化させるかを考えていると思うので、自分がどうやるかより、観た人がどうなっていくかを考えて作るので、意識は変わったかもしれないです。

稽古中、人の芝居を観ている時間も長いですよね。メモを取っていたのを見たのですが、何を書いていたんですか?

私はどのシーンでも想像から作るということを体感したい、掴みたいと思っているから、他の人が演じてる時も自分が出ている時のイメージで、この感覚かなと思ったらそれをメモしてます。「みんながんばれ」って思いながら(笑)。

撮影:竹久直樹
撮影:竹久直樹
撮影:竹久直樹

米川くんは大きな野望として世界平和と言っていたんですけど、渋谷さんは何か大きな夢や野望はありますか?

お芝居はずっと続けたいと思っていて、おばあちゃんになっても続けたいと思ってて、でも何か今は目の前の作品でいっぱいいっぱいなんですけど、これが終わったらまたさらに自分の夢も成長していくんじゃないかと思っていて。最初始めた時は周りにお芝居をやりたいと言えなくて、親にも言えなくて、でも実際始めてみて映画に出たりすると応援してくれる人が増えて、この作品が始まったらそれがもっと増えて、自分ひとりでやっていたことがどんどんおっきくなってきて、一緒に演る人も増えたり、岡田さんとか皆さんにも会えたり、夢も成長している感じがあるので、これからも続けていくうちにやりたいことが広がって、野心も広がるんじゃないかと思っています。

目の前の幸せに固執することでしか反発することができない

お話し会(稽古場レポートのウォーミングアップ参照 https://chelfitsch20th.net/articles/250/)では選挙のことが話題になっていましたけど、そうした社会的な大きな出来事への意識はこれまでしてきましたか?

当時4歳でしたけど、阪神淡路大震災がありました。朝方だったんですけど、その時おばあちゃん家の2階で寝ていて、タンスがめっちゃ揺れたのをお母さんが慌てて押さえて、収まったらちょっと下を見てくるって言ったのだけはよく覚えてて。その記憶しかないですけど、小学校とかでも震災の日は体育館にみんなが集まって蝋燭に火を灯しながら1分間黙祷していたので、震災は歴史として受け継がれていっている中で育ちました。

そんな中で育って、2011年の震災はどう見えていましたか?

すごいことが起きていて、また震災だって感じでしたけど、距離があるから画面上ではすごいことになっているのに自分の時間は普通に流れていて、普通に学校に行ったりして。ボランティアとか募金とか、ああぁと思ってるけど何もできない、みたいな。だからと言って安全なところにいる私がわかったように悲しんでいいのかというふうにも考えてしまって。とにかく自分の生活をちゃんとしようと思いました。自分たちが以前経験した震災を繋いできたように、遠くで見ているけど、今回のも風化させないようにしなくちゃいけないと思いましたね。

東京に出てきたここ2、3年の間って、デモとかすごくたくさんの政治的な動きが起こりましたけど、そういうことへの距離感とかどうでしたか?

何か、地元にいる時よりこっちに出てきた時のほうが政治に対する関心の高さは違うなって。新宿のデモも初めて見たし、そういう温度差みたいなのはあるなと思ったし、同じ国内のことだけど、都会にいる私と地方に住んでる時の私には距離感があるし。それは自分が年齢を重ねたからというのもあるかも知れないですけど。
2、3年前のツイッターには楽しいツイートしか流れてこなかったのに、最近は政治のツイートばっかり出てきて、画面が明らかに変わっていて、危機感が募っていっているんだなって。友だちも今まで政治の話なんてしたことなかったのに、選挙行ったという話をするように変わってきていて、それは本当に怖いなと思います。そこまで来ているんだなって。自分から出ていかなくても状況のほうが迫ってきているのが怖い。

その時、自分はどうしているんですか?

前回の選挙で初めて投票に行って、それまでは遠くのことだと思っていたのに、行かなきゃと思って。投票って意気込んでいくけどあっさり終わるじゃないですか、あ、終わっちゃったと思ったら、結果が出て。他人事ではない感じになっています。投票所ってガラガラで、ツイッターとの温度差がすごい。それにもビックリして。
大きいことはできないけど、目の前の小さなことに固執し続けるしかないんじゃないかと思っています。目の前の幸せに固執することでしか反発することができないというか、目の前のものは守っていこうと。

撮影:竹久直樹

渋谷采郁
1991年12月25日生まれ、兵庫県出身。大学在学中に、神戸にて行われた約半年間に及ぶワークショップを経て、映画「ハッピーアワー」(2015)に出演。大学卒業後、ピッコロ演劇学校に入学し演劇を学ぶ。卒業を機に上京し、その後、舞台「ブルールーム」(2016)に出演。
twitter:@sbtn_ayk

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